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代謝率と消化吸収効率 1

 
 諏訪流では、「鷹は餌加減腹加減(えかげんはらかげん)」と言い、「腹の入れ替え」が重要と説きます。
 私はこれを「代謝(厳密には代謝率)」の問題と解釈しました。
 心強いことに、たとえば「The Imprint Accipiter」にも、metabolismの大切さ、が出て来ます。
 私が代謝と言い出しのは同書を読む前ですし、おそらく、Mr.McDermotは「腹の入れ替え」という表現は知らないのではないかと思われます。独立してたどりついたのですから、「代謝」が大切であるというテーゼはかなり信頼できそうです。鷹狩りをする場合のみならず、リハビリテーションにおいても、狩りを目的としないフリーフライト、普段の飼育管理においても、代謝を意識することは大切なのです。

 この場合の「代謝」は、新陳代謝ではなく、主にエネルギー代謝を意味します(このふたつが無関係とも思えませんが、とりあえずはエネルギー代謝に注目するってぐらいで)。
 簡単にいうと、「食べたものがどう使われるか」であり、その結果、「行動がどういう傾向を持つか」です。

 哺乳類・鳥類から飼育の道に入った場合、実感がやや難しいかもしれません。爬虫類をいじった経験があると腑に落ちやすいのですが。
 これは獣医師にとってもとっつきにくい感覚のようです。冬眠する哺乳類あたりがとっかかりになるかもしれません。

 判りやすいよう、ヒトである私自身を例にします。
 シーズン開始直後、体重は59.0ロ、体脂肪率15パーセントほどでした。除脂肪体重は50.15キロ。
 シーズン半ば以降、体重は56.5キロ、体脂肪率11パーセントほどになりました。除脂肪体重は50.285キロ。
 厳密なカロリー計算(餌加減!)はしていませんが、日に2食が3食になり、おかわりの回数も増えていますので、日々の摂取カロリーは増えています。けれど太らず、むしろ痩せてます。そして微妙ですが、除脂肪体重は増えています。実感としてはこの除脂肪体重の差以上に、腿やふくらはぎは太くなっています。
 ここでは長期的には不足していますが、「翌日も同じ体重である餌の量」を「持ち餌(保ち餌かな?)」と言います。
 代謝があがってきた時、体感としてもっとも違うのが、「歩くことに関して心理的な抵抗が少なくなる」ことです。
 帰りぎわ。100メートル向こうの薮にキジがいるかもしれない。その100メートルを歩くか、今日はいいや、とするか。
 雪があれば同じ100メートルを歩くのは大変になるのにも関わらず、代謝が高くなっていると行く気になります。気軽に行けます。腰が軽くなります。

 猛禽にも、こうした腰の軽い感じになってほしいわけです。ちょっとの餌でも、無理めの獲物でも、腰が軽ければ飛んでくれますから。

 エネルギー代謝は、カロリーの出入りの問題です。
 「入」はある意味簡単で、食べ物の総カロリーです。ややこしい面については後述します。
 「出」が少し面倒です。
 シーズンとともに歩くようになるので、運動で消費される分が増えます。
 寒くなりますから、その分も。
 ただ、これだけでは説明がつきません。シーズン開始直後も半ばすぎも、運動量自体はあまりかわりません。また、「寒冷適応」が生じるので、寒さによるエネルギー損失の程度は減ってしまいます。

 だから「代謝」なのです。
 代謝(厳密には代謝率)が上がると、何もしないでいる時のエネルギー消費が増えます。内燃機関に例えると、アイドリングの回転数を高めにしておくようなものです。アイドリング時の燃費は悪化します。そして、運転時に必要な回転数まで上がるのがラクになります。
 あるいはレーシングカーのスタート前。エンジンをあおっています。あの感じです。

 代謝を高めるにはどうするか。
 エネルギーの出を大きくするのです。ガス欠にします。と、入れたくなります。出入りが激しいと、その出入り自体に使われるエネルギーが大きくなって、それがさらなる出になります。

 詰めるのも、ひとつにはこのためです。
 体に脂肪があると、出を大きくしても、すぐにはガス欠になりません。時間的ゆとりが出ます。と、入れるのはいつでもいいや、ってことになります。出入り自体に使われる出が大きくならないのです。
 伝統的なというより俗語表現ですが、「体が回っている感じ」と言います。「ウズラ50グラムで回っている」などとも言います。
 弾み車をイメージしてください。弾み車を回しはじめる時は、重い弾み車と、軽い弾み車とで、えらく苦労が違います。一度回りはじめたならば、重い軽いはあまり関係ありません。
 詰めて弾み車を軽くておいて回しはじめるのが良いわけです。回りはじめてから、筋肉をそこに付け足して重くしていくのです。
 そして、回しはじめようとする時、軽いことともに、「同じ軽さで安定していること」も大切です。一回転ごとに重くなったり軽くなったりしていては力が入れにくいようなものです。鳥の体重でいうなら、日々の変動が0.5パーセント以内がひとつの目安です。1キロで行く時、997.5グラムから1002.5グラムの上下5グラム内に押えたいのです。上下各5グラムだと、ちょっと雑です。0.5パーセントより細かい精度を目指しても、湿度の変化などに影響されて、あまり意味がありません。
 後述する諸要因によって、持ち餌=日々の餌の必要量は大きく変動します。餌の量は安定しなくていいのです。餌の量を変化させることによって、体重を安定させます。200グラムの鳥なら数日、600グラムなら10日、1,000グラムなら15〜20日、ぐらいの期間、この「低め安定」を保ちつつ、出を大きく保つと、代謝が上がります。

 エネルギーの出を大きくすると、その出自体と、激しい出入りに使われる別の出との相乗効果によって、腰が軽くなる、のです。
 これは餌の量や体重、運動量などの推移からもわからなくはありませんが、実験室内で操作しているわけではなく、いくつかの要素は正確な計測が困難です。たとえば運動量。屋外での距離推算がそもそも難しく、風向きを加味せにゃらず、おまけに同じ100メートルでも、拳にむかってゆっくり飛ぶのと獲物を追って全速力で飛ぶのとは違うわけで、かなり雑にならざるを得ません。
 いま訓練しているこの鳥の状態・・・は、ある程度感覚的につかむしかありません。ただ、この感覚は、判ってしまえば簡単ですし、判っている人同士であれば判断にあまり個人差が出ません。ある程度信頼でき、そんなにあいまいではありません。ビカソとモネとどっちがいい画家か、や、セナとシューマッハはどっちが速いか、のような感覚では「ない」のです。
 補助輪なしの自転車でバランスを取る・・・とか、水泳で息継ぎをする・・・みたいな感じと思ってください。腑に落ちる前は想像もしにくいけれど、一度判ってしまえばどうってことない、ですよね。

 出に効くのは、大別すると3分野になります。
 1 代謝それ自体
 2 運動
 3 体温維持

 1はまあ結果であって、2,3と「低め安定」でもたらされるもので、直接はいじれません。

 2、運動。
 要するに飛ばしたり、ジャンプアップさせることです。この場合、運動させるためには餌が要りますから、むやみには運動量を増やせないというネックがあります。運動量を増やしても「低め安定」を崩してはなんにもなりません。

 餌と無関係な運動も考えとしてはあります。紐につないで、あるいは建物内の長い廊下で、ヒトが追い立ててふたつの止まり木の間を往復させる、というような。
 メンタルな悪影響を考えれば私有する鳥には使いたくない手ですし、放鳥する鳥の場合にも良いとはいえません。別の手段があるのですし、恐怖心と運動とで、循環器や筋肉・腎臓に過大な負担がかかることがあります。
 キジは数百メートルを飛ぶことができますが、鷹に追われて飛ぶのだと、数十メートルでバテることがあります。数十メートルしか飛んでいないのに飛べなくなるのです。
 大型の草食獣を生け捕りにするのに、昔、自動車で追って疲れさせる方法が取られたことがあります。無視できない確率で死にました。体温が上がりすぎて。あるいは、負荷を無視して(そりゃそうです。追われる側にすれば追い付かれたら死なので、後先考えていられません)走った結果、筋肉が大量に壊れて腎臓に流れ込み、急性の腎不全で死んだり。数日後に亜急性の腎不全で人知れず死んだこともありましょう。
 これは、現代でも、動物園の動物を保定する歳のひとつの問題点でもあります。押えつけられてじたばたするだけでも数日後に死ぬことがあるので、とっとと麻酔してしまいたい、ついてはどんな麻酔が安全か・・・。
 猛禽でも保定死はあります。猛禽の腎臓の弱さには定説がありますし、特にインプリントだと往生ぎわ悪くもがき続ける個体がありますし。威して運動させるのはいいアイディアとはいえそうにありません。

 あまり大きな割合ではなさそうですが、暑さも出を大きくします。はあはあと口を開けて息をすれば、普通の呼吸よりもエネルギーを多く消費します。開嘴呼吸ですが、別名努力呼吸、なのです。

 余談。なので、衰弱した猛禽を加温する場合には注意が必要です。羽を膨らませないぐらい暖かく、かつ、開嘴呼吸に至らない程度、が望ましいのです。小鳥の常識を安易にあてはめて三十何度にするのは賢い管理とはいえません。サイズや衰弱の程度にもよりますが、25度前後から様子をみるほうが良いようです。

 いずれにせよ、暑さを代謝を高めるために使うのは危険すぎるでしょう。

 3、体温維持。
 気温。
 寒ければ出は増えます。が、寒冷適応によって、その程度は減ります。
 ヒトでの例。暖地にすむ人が寒さにさらされると震えます。「震え産熱」といいます。寒さに慣れている人は、震えずに熱を作ります。「非震え産熱」です。同じ熱量を作るに要するカロリーは後者のほうが少ないのです。
 脂肪の少なさ。
 脂肪はカロリー保存庫である同時に防寒具でもありますから、脂肪が少ないほうが、体内での熱生産の必要性ひいてはカロリー消費は大きくなります。
 ボロい羽毛。
 外部寄生虫に食われた場合はむろん、暖地産でそもそも羽毛が少ない種の場合、逃げていく熱は大きくなります。
 風。
 飼育場所に、特に夜間に風が入れば、熱が逃げます。
 濡れ。
 同様に熱を奪います。水浴びで代謝を上げるテクニックはだから存在します。ただ、羽毛が汚れている個体に水浴びさせると、中期的には熱を保持する効果が大きいかもしれません。もっとも、そんな効果が生じるような汚れかたの鳥は訓練対象とすべきではありませんが。
 餌、水。
 冷たい餌、冷たい水は、それらを体温にまで暖める過程で熱を消費します。ただ、割合として大きくなさそうですし、メンタル面を考えたら、あえて意地悪く冷やす必要はなさそうです。

 ただ、やっかいなことに、これらをひっくるめた「体感寒さ」は代謝を下げる効果があります。その種のいわば「活動低温限界」以下の温度になると、頑張って(代謝を上げて)動いて狩りをするかわりに、小春日和が訪れるまで代謝を下げて手持ちの脂肪で我慢しよう、になってしまうのです。夜間だけ「節約我慢モード」になることもあります。 

 これらを「うまく組み合わせて」代謝を上げていくわけですが、「低め安定」の「低め」の程度が問題になります。
 これが一口にはいえません。なぜなら、メンタル側との兼ね合いがあるからです。
 代謝だけを考えるのなら、インプリント個体も、体脂肪率が2,3パーセントになるようにしちゃえばいいのです。が、そんなことすると、視野が潰れて、下手すると目の前に突き出された餌も「見えなく」なって、訓練が成立しなくなります。
 この場合は、代謝を上げる効率が良いないのは諦めて、視野が確保できる範囲内での「低め安定」でなくてはいけません。場合によっては標準体重の85パーセント、なんてこともあり得ます。
 代謝が低くて「腰が重い」のは、ヒトへの親和性が高いというインプリントの別の利点で補うわけです。そして外を連れ歩くうちに視野のベースが開いていきますから、その時点でもう一度軽く詰めて(「空詰め」でなく、給餌はするが量と質を落とす)、改めて代謝を上げてやります。
 気難しいアガケの場合、逆の意味で、やはり代謝優先とはいかなくなります。代謝をあげるために必要なより以上体重を下げないと、ヒトへの恐怖から訓練が成り立たなくなるわけです。

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copyright Ikuya Hatano 2002
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