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鷹狩りを応用したリハビリテーション

 要件

 日本の獣医師を非難するつもりは毛頭ありませんが、猛禽、とくに物理的な事故による怪我をちゃんと治せる獣医師は、国内には多くないように思われます。ほとんどいないと言ってもいいのかもしれません。
 これはまあ仕方のないことです。公的な制度による補助もなく、猛禽を持ち込む一般畜主も少ないわけで、猛禽を専門に勉強しようたってそれじゃ食えませんから。デメリットがあるのは承知の上で、「健全なマーケットとしての」猛禽飼育を私が肯定する理由のひとつはここにあります。イギリスには「猛禽飼育者」が約1万1千人いるとされていますが、このぐらいいれば、猛禽専門を掲げる獣医師が何人か食えるわけで、と、そこまでのめり込まない獣医師も何かあったら相談する相手があるってことですから。
 本筋にもどると、つまり、「きちんと治療できてなきゃリハビリは不可能」なんです。
 樫村機の片翼生還(検索すれば出て来ると思います)が大きく取り上げられたのはそれが奇跡的だからです。飛ぶってのは走ったり歩いたりするよりずっとシビアです。走ったり歩いたりだって自然の中で生き延びるためにそれをやる時にはシビアですが、飛行の場合、もっと身も蓋もなくシビアです。
 なので、骨折は繋がったが、翼が捩じれてるなあ・・・というのはかなり辛いものがあります。パっと見判るぐらいだともっと辛いものがあります。
 その場合、悲惨な死が確実なことを知りつつ放すか(だったら殺処分のがマシ)、持て余すか、ってことになります。
 なので、個体のトリアージをしてでも、放せるまでに治癒しそうな個体にはぜひ完璧を期した治療がなされてほしい、と思います。骨折なら3軸全部どんぴしゃ。そのために固定が大掛かりになろうが、術中死リスクが高まろうが、しかたないでしょう。死体か完品か、のほうが、とりあえず骨次いでみました的個体がたまるより建設的でしょう。

 懐け

 最後は放すにしても、とりあえずは懐けます。足革をつけ、大緒という紐で止まり木なり止まり台に繋ぎ、暗い静かなところに放置して、体重を落とします。種や個体や状態によって日数はさまざまですが、頃合に体重が落ちた時に(これが腕です)、暗い中、静かに近づいて拳に乗せ、餌を食べさせます。体重を管理しながら、少しずつ接触時間を伸ばし、薄明るいところから明るいところへと進めます。

 雛のうちに保護された個体の場合

 刷り込みが完成していたらお手上げです。体、羽とも完全でも、どうにもなりません。本来なら刷り込みの感受期が終了している筈の数ケ月齢になってからでも、大病すると刷り込みが生じてしまったりするので、それも油断なりません。
 性的刷り込みの有無は、発情に至っていなくても、見ればだいたいは判ります。が、落ち着いた条件下で経験者が見ないと・・・です。ハヤブサ類ではフードをかけた時に、フードのサイズが合っているのに足で頭を掴んで転げ回るぐらい嫌がるようなら刷り込み個体の確率高し、です。
 ・・・雛で保護されたが性的刷り込みがない個体、また、巣立ち頃に保護された個体の場合、ひと手間増えます。狩りを教えないとなりません。小型種では簡単ですが、イヌワシとかになると相当に大変でしょう。より小型ですが、クマタカはより学習期間が長いので、たぶんもっと大変です。「野生で自立開始ぐらいのスキル」を目処に考えても、丸一年やそれ以上かかりそうです。

 狩りを知っているか、覚えた後で

 体作りです。
 据え回すだけでも、揺れている拳に止まっているわけでエネルギーを使いますし、気疲れもします。
 筋トレとしてのジャンプアップも使えます。低い台から高く差し上げた拳に向かって飛び上がるのがジャンプアップといわれる訓練です。肉体的には10メートルなり20メートルなり飛ぶのと同等以上の負荷ですが、心理的により簡単に見えるらしく、変動強化スケジュールを使うことによって、少ないエサで大きな運動量を稼げるわけです。負荷は種によって調整します。
 むろん、渡りやルアーへの飛行なども合わせて行っていきます。
 こうした運動は、それ自体の効果もありますが、それだけではありません。ここが一番のミソで、鷹狩りの経験のないかた、あるいは鷹狩り経験者が身近にいないかたがリハビリを行おうとする時の落とし穴です。
 運動は筋肉の増強や飛行技術の向上だけでなく、代謝を高めます。
 哺乳類の生理学のホメオスタシスは横においておきます。鳥は爬虫類の一部なので、爬虫類を考えます。体温その他によって基礎代謝率は大きく変動するのです。一般家庭では、あるいは屋外では酸素は計れないので餌の量を目安にすると、まあ倍ぐらいの変動はあります。消化効率もガタつくんで正確ではありませんが。
 私の師匠の花見に倣ってむかしふうに言うと、「鷹は餌加減、腹加減」で「腹の入れ替え」が肝心、ということです。
 基礎代謝が高まると、腰がかるくなって、少しのエサ目当てに気軽に飛ぶようになります。と、ますます代謝は高まり、筋肉も飛行技術も磨かれ、同じ距離・状況を飛ぶのが簡単にこなせるようになり、さらに少しのエサでも飛んで来て・・・といういい循環が作れます。最初に体重を下げるのは、はずみ車の最初の一回転を楽にする意味もあるのです。
 逆の悪循環にはまってしまうと呼んでもルアー振ってもこないものだから、紐つけておいてヒトが脅かして飛ばせて鍛えよう・・・なんて悲惨なことになるわけです。敵から逃げるためと狩りのためとでは飛行の意味が違い、ひいては飛び方も違ってきます。「合計Xメートル飛んだから充分」とはいかないのです。

 仕上げ

 スポーツ選手でいうところの「試合勘」の寛容です。実際に獲物を追わせて、微調整をしてもらいます。できれば、特別な鳥獣捕獲許可が欲しいところです。

 放鳥1

 いろんなやり方があります。仕上げの段階で体重を上げていくのもひとつです。最初の懐けで隠されていたヒトへの警戒心が再び出て来ます。同時に飛びのがどんどんうまくなります。ある日戻って来なかった・・・でいいわけです。その後何日か同じ場所で呼んでも来なければ完了。呼んで出て来るようなら生き餌でも投げてやって捕らせ、連れ帰りはしない、とか。足革なんかは脱着式にできます。
 ただ、保護地点で放したい、というような要請があると、訓練者が地元でないかぎりこの方法は使えません。

 放鳥2
 場所や日付が決っている場合は別のやり方をとります。ボランティアでリハビリをやっていても、個体を私するつもりじゃないか、放さないんじゃないかと疑うむきもあるので、どなたか立ち会いの元で放す、なんて場合も。まあ実際には、悪いことするつもりなら、それなりの調整すれば後日呼べるんですが。
 本題。
 放す何日か前から、飛行訓練は中止します。で、どんどん食べさせます。運動を中止しても、それまでの代謝の勢いがあるので、ずっと運動不足だった場合と違って、いい筋肉が作られ続けます。
 さらに脂肪も。旅立ちにあたってお弁当を持たせるわけです。
 充分に体重が上がったら、小屋の中でだって拳に止まらなくなります。こないだまで呼べば飛んで来たのが、嫌がって逃げ回ります。無理に捕まえて放鳥地点へ持っていって放すだけです。
 レベル
 ヒトがスポーツを学ぶときもそうですが、体力技術をひっくるめた「腕前」は直線的に上がるものではありません。
 最初はなかなか上達せず、あるところでぐっと伸び、名人になってしまうと、努力量の割に伸びなくなります(レベルと経験値)。
 細かくみればさらに、壁にぶつかって乗り越えて・・・なわけです。
 と、リハビリも、潮時ってものがあります。
 あるレベル以下では、期待生存率はゼロ。何羽放しても無駄。
 かといって、あるレベル以上を求めると、期待生存率は大きいけれど、一羽が必要とするコストが膨大になる。
 効率よくぐっと伸びて、伸びが鈍ったあたりで放すのが、一番効率が高いはずです。
 それがどこ、というのは、飛びかたやら、それに対する獲物の反応の本気度やらから推し量るしかなく客観的に示すのは困難ですが、どこかにこうした意識は必要です。
 生存がほとんど期待できない半端な鳥を5羽放すぐらいなら、4羽は殺処分して1羽をあるところ以上まで仕上げるほうがいい、わけですから。

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copyright Ikuya Hatano 2002
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